「テストステロン値が高い人ほど、姿勢を支える深い背筋がしっかり保たれていた。」
今回の論文で、私が一番「なるほど!」と思ったポイントです。
「テストステロン」と聞くと、「男性ホルモン」「筋肉がつくホルモン」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
私も最初は、「全身の筋肉量」との関係を調べた研究なのだと思いました。ところが、違いました。
東京テストステロン研究会の田村貴明先生らの研究グループが発表した論文で注目されたのは、全身の筋肉ではなく「姿勢を支える深い背筋(傍脊柱筋)」だったのです。
この深い背筋は、背骨を支え、立つ、歩く、バランスを取るなど、私たちが毎日元気に生活するために欠かせない筋肉です。
本研究では、脊椎手術を受けた平均74歳の男性38人を対象に調査が行われました。その結果、テストステロン値が高い人ほど、
・姿勢を支える深い背筋がしっかり保たれている
・腰痛による日常生活への支障が少ない
・男性更年期症状が軽い
・手術後の回復も良い という関連が認められました。
ここでいう「腰痛による日常生活への支障」は、RDQ(ロランド・モリス腰痛機能障害質問票)という評価法で調べられたものです。
「腰が痛くて歩くのがつらい」「立ち上がるのが大変」「思うように家事や仕事ができない」といった、腰痛が毎日の生活にどれくらい影響しているかを評価します。
一方で、骨密度や全身の筋肉量、握力、体脂肪率とは、はっきりした関係は認められませんでした。これは結構驚きでした。
つまり、この論文が教えてくれたのは、「筋肉が多いこと」が大切なのではなく、
「元気に立ち、歩き、自分らしく暮らすための筋肉」がテストステロンと深く関係している可能性です。
私自身、臨床の先生方から「テストステロンクリームやジェルを使うと、男女ともに腰痛が楽になる患者さんが少なくない」という話を耳にすることがあります。今回の研究結果を見ると、その背景には何らかの共通したメカニズムがあるのかもしれません。
この論文を読んで、私は父・熊本悦明の言葉を思い出しました。
父はいつも、「テストステロンは性ホルモンではない。全身の健康を支えるホルモンなんだ」と話していました。
そして患者さんには、「長生きすることが目的じゃない。生きている間、人に迷惑をかけず、元気に暮らせることが大切なんだ」
と、琵琶法師のように繰り返し伝えていました(笑)。
父が診ていた患者さんは、「元気に歩き続けたい」「趣味を続けたい」「仕事を続けたい」という方ばかり。
まさに父が目指していたのは、病気を治すだけではない「攻めの健康医学」でした。
今回の論文は、父が長年積み重ねてきた臨床経験を、MRIによる画像評価と統計解析という現代の医学で裏付けた研究の一つだと感じています。父の診療を受け継いだ田村先生が、このような研究成果を世界へ発信してくださったことを、とてもうれしく思います。
テストステロン研究は、もはや性機能だけの話ではありません。
「いつまでも自分の足で立ち、歩き、自分らしく暮らす。」
そのためにテストステロンがどのような役割を果たしているのか。
今回の研究は、その可能性をあらためて示してくれた、とても意義深い論文だと思います。
研究メンバー 熊本美加
参考論文
Hatta S, Eguchi Y, Tamura T, et al.Association of total serum testosterone levels with musculoskeletal parameters in male spinal surgery patients.Journal of Orthopaedic Science. 2026.DOI: 10.1016/j.jos.2026.06.015
