
「いつまでも自分の足で歩きたい」「できるだけ人の手を借りずに暮らしたい」。いわゆる「ピンピンコロリ」という言葉には、そんな願いが込められているのではないでしょうか。最期の迎え方を運動で決めることはできませんが、今日から育てられるものがあります。それが、自分の体を支えて動く力です。
前回は、高齢の方も室内で始めやすい、椅子や壁を使った運動をご紹介しました。今回はその続編です。基本の動作に慣れた方に向けて、背中・太もも・お尻に少しずつ負荷をかける方法をご提案します。「回数をこなす」ことより、「姿勢を保って丁寧に動く」ことを大切にしてみましょう。
姿勢を保つ力は、暮らしを支える力
椅子から立ち上がる、台所に立つ、買い物袋を持って歩く。こうした動作では、背骨を支える脊柱起立筋などの背筋、膝を伸ばす太ももの筋肉、股関節や骨盤を支えるお尻の筋肉が協力しています。体幹の筋肉も一緒に働き、重心が動いても体を支えています。
ここでいう「よい姿勢」は、胸を張って腰を反らし続けることではありません。呼吸を続けながら、ご自身に合った位置で体を支え、必要に応じて動けることです。背中だけを強くすれば十分というわけでもなく、脚やお尻、バランスを保つ力を合わせて育てることが大切です。
また、運動の難しさと転びやすさは別に考えましょう。支えを外してふらつくより、支えを残したままゆっくり動くほうが、狙った筋肉を使いやすい場合があります。ご家族と取り組む場合も、同じ回数を競わず、それぞれの安定性を基準にしてください。
背中が丸くなってきた、立つと腰がつらいといった変化には、筋力だけでなく、骨折や関節・神経の病気が関係する場合もあります。「年だから」「背筋が弱いから」と決めつけず、痛みや急な姿勢の変化があるときは診察で確かめましょう。
少し負荷を上げる前に、確認したいこと
今回の運動は、前回の軽い運動が痛みなくでき、立位や床への移動が安定している方の次の段階です。骨粗鬆症や背骨の圧迫骨折、脊椎の病気、人工関節、手術後の制限がある方は、先に主治医や理学療法士へご相談ください。床に安全に座ったり立ったりできない方は、床の運動を選ばなくて構いません。
滑らない床で、車輪のない安定した椅子や固定された台を用意します。椅子は壁につけ、周囲の物を片づけましょう。息を止めず、力を出すときにゆっくり息を吐きます。胸の痛み、強い息切れ、めまい、急な痛みやしびれが出たら中止してください。強い症状や治まらない症状は速やかな受診が必要です。
姿勢を支える5つの運動
以下の回数・保持時間は、一般向けに少量から始めるための例です。全員に同じ量が適しているわけではありません。まずはできそうな2〜3種を選び、1セットから取り組んでください。
1.ゆっくり座る「椅子スクワット」

太ももとお尻を使います。足裏を床につけて椅子に座り、足を腰幅に開きます。股関節から少し前に傾き、反動をつけずに立ちましょう。その後、お尻を後ろへ引き、3秒ほどかけてゆっくり座ります。ドスンと落ちずに座れる高さの椅子をお使いください。
最初は5回。手の支えが必要なら使って構いません。前回より一段進めるポイントは、座る動作を丁寧に制御することです。慣れたら6回、8回と少しずつ増やし、手の支えを減らすのは安定してから。低い椅子への変更と回数増加を同時に行わないようにしましょう。
2.支えを使う「浅いスクワット」

固定された台などに両手を添えて立ち、足を腰幅に開きます。膝とつま先を同じ方向に向け、お尻を少し後ろへ引くように浅く腰を落として戻します。背中を丸めたり反らしたりせず、かかとは床につけたままにします。
5回から始め、痛みなくできれば8〜10回を目安に増やします。深くしゃがむことが目的ではありません。1番と使う筋肉が重なるので、初めはどちらか一方で十分です。膝や腰に痛みが出る深さまで曲げないでください。
3.腰を反らさず「脚を後ろへ」

台に両手を添え、上体を起こして立ちます。片脚を、膝をほぼ伸ばしたまま少し後ろへ動かして戻します。お尻と太ももの後ろを意識し、腰を反らして脚を高く上げないようにしましょう。
左右5回ずつ、上げたところで2〜3秒から。ふらつかずにできれば、保持を5秒程度に延ばします。脚の高さより、骨盤と背中を安定させることが大切です。足首の重りを追加する前に、まずこの動作を確かめてください。
4.お尻で支える「小さなブリッジ」

床のマットにあおむけになり、両膝を曲げて足裏をつけます。お腹に軽く力を入れ、お尻を締めながら骨盤をゆっくり持ち上げます。腰を反らして高く上げず、首や肩に力が集中しない範囲で戻しましょう。
まず5回、持ち上げた位置で2〜3秒を目安にします。余裕があれば保持を5秒程度に延ばします。片脚で行う方法は負荷が大きくなるため、今回は両脚で支えてください。腰痛、脚のつり、床からの立ち上がりへの不安がある方は無理に行わず、ご相談ください。
5.背中を安定させる「四つばいバランス」

肩の下に手、股関節の下に膝を置いて四つばいになります。お腹に軽く力を入れ、背中を水平に保ちながら片脚を後ろへ滑らせます。安定する方だけ、その脚を低く浮かせて戻しましょう。腰を反らす、骨盤を横に傾ける動きは避けます。
左右3回ずつ、2〜3秒から始めます。十分に安定してから、反対側の腕も伸ばす「バードドッグ」へ進みます。背筋やお尻を使って姿勢を保つ運動で、手足を高く上げる競争ではありません。手首や膝が痛む方、四つばいで不安定になる方は別の運動に変更しましょう。
たとえば、立位が安定している日は1番と3番、床での動作に慣れた日は4番と5番を選ぶ、といった組み合わせが考えられます。すべてを一度に行う必要はありません。1種終えるごとに呼吸が落ち着くまで休み、次の種目へ進みましょう。忙しい日は1種だけでも、丁寧に行う習慣を優先してください。
筋肉は、休む時間も含めて育てましょう
厚生労働省は、成人・高齢者に週2〜3日の筋力トレーニングを勧めています。例えば月曜と木曜に取り組み、間の日は散歩や軽い体操をする形なら、生活にも組み込みやすいでしょう。同じ筋肉を強く使う日は連日続けず、疲れや痛みが残るときは休んでください。
始めに数分、無理のない足踏みや歩行で体を動かします。運動中は、最後まで形を保ち、あと数回はできそうなところで終えましょう。負荷を増やすときは、回数、保持時間、セット数のうち一つだけ。翌日の家事や歩行に支障が出るようなら、量を戻すことをご提案します。
記録するのは回数だけでなく、「椅子から立つときに手をつく回数」「台所で楽に立てる時間」などでも構いません。日常の変化に目を向けると、運動の目的が見えやすくなります。ただし、記録のために無理な限界測定をする必要はありません。
テストステロンと「背骨を支える筋肉」の研究
銀座院でホルモン補充療法外来を担当していた、千葉大学泌尿器科の田村貴明医師も共著者に名を連ねる研究をご紹介します。論文は日本整形外科学会の英文誌「Journal of Orthopaedic Science」に掲載され、2026年7月27日にオンライン公開されました。
この研究では、脊椎手術を受けた男性38人、平均年齢73.7歳を対象に、血中テストステロンと筋肉や生活機能の関係が調べられました。テストステロン値が高いほど、MRIで測った背骨の周囲の筋肉の断面積が大きく、腰痛による生活の支障が小さい傾向がありました。
また、生活の支障を測るRDQという質問票では、術後の点数だけでなく、改善率との関連も報告されました。一方、全身の筋肉量、握力、骨密度などとの明確な関連は認められていません。性機能の話にとどまらず、男性の体を支える機能を考えるうえで興味深い報告です。
ただし、これは少人数の手術患者を調べた観察研究です。テストステロンを補えば背筋が増える、腰痛が治る、手術後の回復がよくなると証明したものではありません。運動が続かないほどの不調があるときは、運動器の状態に加え、必要に応じてホルモンを含む体全体の評価を考える、という捉え方が適切です。
赤羽院で、続けられる運動をご相談ください
みらいメディカルクリニック赤羽では、整形外科・リハビリテーション科の診療を行い、幅広い年代の方のリハビリテーションに力を入れています。人工関節の手術や骨折など、他院で治療を受けた方のリハビリもご案内しています。
「どの筋肉を鍛えればよいか」「この痛みがあっても動かしてよいか」「もう少し負荷を上げたい」。そんなときは、ご自身だけで運動を増やさず、ご相談ください。他院で治療中・手術後の方は、紹介状をご持参いただくと経過を共有しやすくなります。診療時間や受診方法は、赤羽院のホームページでご確認ください。
これからの暮らしを支えるために、今日できる動作を一つ、丁寧に。背中・太もも・お尻を無理なく使い、ご自身に合った負荷を積み重ねていきましょう。
