煮込んだ野菜の甘み。オリーブオイルの香り。湯気とともに立ち上るハーブの清々しさ。
ギリシャのエーゲ海に浮かぶイカリヤ島は、長寿者が多い地域「ブルーゾーン」の一つとして、住民の暮らしが研究されてきた島です。そこには、身近な食材を味わい、日々体を動かし、人との時間を楽しむ生活があります。イカリヤ研究
何を食べるか。そして、食卓を離れた時間をどう過ごすか。島の暮らしから、私たちにも取り入れられる長寿のヒントを探してみましょう。
1.食卓を豊かにする、野菜・豆・ハーブの知恵
葉っぱの一皿に、島の食文化が詰まっている
イカリヤ島の食文化で注目したいのが、「ホルタ」と呼ばれる食用の野草や葉野菜です。
2023年の現地調査では、31人への聞き取りから、食用として利用される56種類の野生植物が記録されました。苦みのあるものも多く、ゆでてオリーブオイルとレモンで和えたり、パイに入れたりして食べられています。植物ごとの味を知り、おいしく食べる工夫が受け継がれているのです。野草の食文化を調べた研究
日本で取り入れるなら、小松菜、春菊、ほうれん草、菜の花などがおすすめです。ゆでた小松菜にオリーブオイルを少量、レモンをひと搾り。春菊には刻んだくるみを合わせてもよいでしょう。
野草を自分で採る必要はありません。スーパーの青菜で十分です。いつもの一種類に、もう一種類。食卓の緑を少しずつ豊かにしてみましょう。
ハーブは、毎日をおいしくする相棒
島では、オレガノ、タイム、ローズマリー、セージ、ミント、カモミールなどが料理や飲み物に使われています。ハーブは、暮らしに根づいた食材です。島の食文化
研究でも、その成分は注目されています。例えばセージティーには、ロスマリン酸などのポリフェノールが含まれ、実験室で測定した抗酸化作用との関連が報告されています。人の長寿への効果はまだ分かっていませんが、身近な植物の成分を探る研究は進んでいます。セージティーの成分研究
トマトにオレガノ、白身魚にタイム、焼いたじゃがいもにローズマリー。香りが加わると、シンプルな食材にも奥行きが生まれます。
初めてなら、乾燥オレガノをひと振りするところから。お茶は、市販の飲用ミントティーやカモミールティーを無糖で味わってみてください。量を増やすことより、気に入った香りを日常に取り入れることを大切に。食用・飲用の商品を選び、精油や濃縮エキスとは区別しましょう。
明日の買い物で選びたい食材
島の食文化と地中海食を、日本の台所に取り入れるなら、次のような組み合わせが試しやすいでしょう。
| 食材 | おすすめの取り入れ方 |
|---|---|
| ひよこ豆・レンズ豆・大豆 | トマトや玉ねぎと煮込む。水煮なら手軽に使えます |
| 小松菜・春菊・ほうれん草 | ゆでてオリーブオイルとレモンで和える |
| トマト・なす・ズッキーニ | にんにくと蒸し煮にし、オレガノを添える |
| エキストラバージンオリーブオイル | バターなどの一部と置き換え、かけすぎず使う |
| 無塩のくるみ・アーモンド | 少量を菓子の代わりや料理のアクセントに |
| 魚・豆腐・納豆 | 野菜中心の献立にも組み合わせ、たんぱく質を確保する |
地中海食には臨床研究の裏付けもあります。スペインのPREDIMED試験の2018年再解析では、心血管疾患のリスクが高い成人において、オリーブオイルまたはナッツを補った地中海食の群は、低脂肪食の助言を受けた群より、心筋梗塞・脳卒中・心血管死を合わせた発症リスクが低くなりました。注目したいのは、食事全体の組み合わせです。PREDIMED試験
「断食」は、食卓を切り替える習慣
ギリシャ正教には、復活祭前などの期間に肉・乳製品・卵を控え、日によって魚や油も制限する習慣があります。その間は、豆、野菜、穀類などの出番が増えます。これは、何日も何も食べない「絶食」や、食べる時間を限定する「16時間断食」とは異なります。正教会の断食を調べた研究
ギリシャの成人120人を1年間追った研究では、断食を実践する人たちに、期間終了時の総コレステロールやLDLコレステロールが低いという結果が報告されました。断食と血中脂質の研究
一方、イカリヤ島の90歳以上71人を調べた研究では、半数以上が宗教的断食を実践していませんでした。断食だけが長寿の鍵というわけではありません。島の生活習慣調査
日本で生かすなら、例えば週に一度、豆と野菜の料理を献立の中心にする。食卓の主役を変えてみる、という取り入れ方ができそうです。
少食のヒントは「栄養を保ち、余分を減らす」
食べすぎないことも、長寿研究の大きなテーマです。
米国のCALERIE試験では、21〜50歳の肥満のない成人を対象に、必要な栄養を確保しながら摂取エネルギーを減らしました。制限群が実際に減らせた量は平均約12%。2年間で血圧や血中脂質、インスリン感受性などが改善しました。人の寿命を延ばしたと証明した研究ではありませんが、過剰な摂取を見直す意義を示しています。CALERIE試験
私たちが取り入れるなら、満腹後のもう一口、習慣になった夜食、甘い飲み物など、自分にとって余分なものから見直すのが現実的です。
ただし、やせてきた高齢者や食欲が落ちている人には、十分に食べることが大切です。筋肉を保つたんぱく質を削らず、体重や体調に合わせましょう。糖尿病の薬を使っている方などは、食事を抜く前に主治医へ相談してください。高齢者の低栄養予防
2.暮らしの中に、体を動かす用事がある
買い物に歩いて出かける。庭の手入れをする。掃除や料理でこまめに動く。こうした日常の活動も、体を動かす大切な機会です。
イカリヤ島の90歳以上を対象とした調査では、約72%が質問票で中等度または高い身体活動の区分に入りました。高齢になっても活動を続ける暮らしがうかがえます。島の生活習慣調査
日本の生活でも、散歩に買い物を組み合わせる、家事の合間に立って動く、ベランダで植物を育てるなど、動くきっかけはつくれます。「今日は何歩だったか」に加えて、「今日は何をして過ごしたか」に目を向けてみましょう。
厚生労働省も、体力や健康状態に合わせて今より少しでも多く動き、座りっぱなしを減らすことを勧めています。歩く習慣に、無理のない筋力トレーニングやバランス運動も組み合わせるとよいでしょう。身体活動・運動ガイド2023
3.誰かに会う予定が、毎日に張りをつくる
「また明日」「今度、一緒に食べよう」。そんな約束が、外へ出る理由になります。
島の90歳以上の調査では、約78%が毎日、家族や友人、近隣の人と交流していました。地域の祭りに参加する人も多く、人とのつながりが日常に組み込まれています。島の生活習慣調査
私たちも、友人と昼食をとる、離れて暮らす家族に電話をする、趣味の集まりに顔を出すなど、自分に合った交流を持てます。
大勢と付き合う必要はありません。気楽に話せる相手や、顔なじみになれる場所を一つ持つ。そこから始めてみてはいかがでしょうか。好きなことを誰かと楽しむ予定は、日々を待ち遠しくしてくれます。
4.よく動き、休む時間も大切にする
イカリヤ島の高齢者には、昼寝の習慣も報告されています。活動の合間に休息をとる暮らしは、忙しい私たちにも考えるきっかけをくれます。イカリヤ研究
ただし、昼寝の長さまでそのまままねる必要はありません。特に高齢者では、長い昼寝が夜の眠りを妨げることがあります。大切なのは、夜に眠れているか、起きたときに休まった感覚があるかです。厚生労働省・睡眠ガイド
午後に少し手を休める。夜は仕事や家事を切り上げ、眠る準備をする。休息も一日の予定に入れてみましょう。眠れない日や日中の強い眠気が続く場合は、医療機関に相談してください。
まとめ――長寿のヒントを、今日の暮らしへ
イカリヤ島から学べるのは、毎日の暮らしをつくる小さな習慣です。
- 食べる: 野菜や豆を取り入れ、ハーブの香りを楽しむ。必要な栄養を確保し、食べすぎを見直す。
- 動く: 散歩や家事など、暮らしの中に体を動かす機会をつくる。
- つながる: 気楽に話せる人、楽しみにできる約束を持つ。
- 休む: 活動と休息の時間を整え、自分に合った睡眠を大切にする。
島の研究は主に観察研究であり、一つの習慣で長寿が決まるわけではありません。それでも、その暮らしは健康づくりを考える豊かなヒントになります。
今夜は豆料理を一品。明日は少し歩いて、誰かと話す。おいしさや楽しさを味方に、続けられることから始めてみませんか。
みらいメディカルグループでは、生活習慣や健診結果についてのご相談を受け付けています。ご自身の体調に合った健康づくりを、一緒に考えていきましょう。
