
「治療を始めて、少し元気が戻ってきた気がする」「まだ変化がよく分からない」。テストステロン補充療法を受け始めると、次の受診までにさまざまな思いが浮かぶかもしれません。調子がよいときには、採血や診察を後回しにしたくなることもあるでしょう。
しかし、治療は薬を使い始めたところで終わりではありません。体調がどう変わったか、体に負担が生じていないかを確かめながら、ご自身に合う方法を考えていくことが大切です。今回は、男性更年期とも呼ばれるLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)などで補充療法を受けている方に向けて、治療開始後の通院で役立つポイントをご紹介します。
「数値が上がった」だけでなく、暮らしの変化を確認しましょう
テストステロンの検査値は、治療を考えるための大切な情報です。一方で、数値が上がることだけを目標にしてしまうと、ご本人が困っていたことが改善したのかを見落としかねません。
例えば「夕方になると疲れて、家族と過ごす余裕がない」「仕事に取りかかるのがおっくう」「性欲の低下が気になる」。治療を始める前に困っていたことを、一つか二つ思い出してみてください。次の診察では、その困りごとが今どうなっているかをお聞かせいただくと、話が具体的になります。
「前よりよい」という感覚も大事ですが、「休日に散歩へ出かける気持ちになった」「午後の仕事はまだつらい」といった言葉でも十分です。変化がないことや、よい日とそうでない日があることも、そのままお伝えください。期待した変化を感じられないからといって、ご自身を責める必要はありません。
AMSスコアで、症状の変化を見える形に
体調を振り返る方法の一つに、AMSスコア(Aging Males’ Symptoms scale:男性更年期症状の評価質問票)があります。気分の落ち込みや不安などの心理面、疲労感や睡眠などの身体面、性欲などの性機能面について、17項目をそれぞれ1〜5点で回答します。合計は17〜85点で、高いほど自覚症状が強いことを示します。
合計点の目安は、26点以下が症状なし〜軽微、27〜36点が軽度、37〜49点が中等度、50点以上が重度です。これは症状の負担を整理する区分で、テストステロン値やLOH症候群の重症度を直接表すものではありません。
治療前と通院時に同じ質問票で振り返ると、何が軽くなり、何が残っているかを共有しやすくなります。合計点だけでなく「落ち込みは軽くなったが、眠りは変わらない」といった項目ごとの変化もお聞かせください。睡眠不足やストレス、ほかの病気でも点数は変わるため、診察や採血結果と合わせて評価します。点数だけで薬を増減せず、記入日を添えて受診時にご持参ください。
記録は短く、受診前に振り返れる程度で大丈夫です
細かな健康日誌を毎日つける必要はありません。週に一度など、無理のないタイミングで、元気、睡眠、気になる症状を短くメモする方法をご提案します。「今週は残業が多かった」「旅行で生活時間が変わった」など、その週の出来事を添えると、診察で説明しやすくなります。
例えば、スマートフォンのメモに「朝の疲れは少し軽い。寝つきは変わらない。今週は出張」と残すだけでも構いません。家族から何か変化を指摘されたときは、ご本人が納得できる範囲で書き留めておきましょう。記録そのものが負担にならないことを優先してください。
薬を使った日も併せて分かるようにしておくと便利です。注射の日付や、処方された薬の使用状況を確認できる形にしておきましょう。「うまく使えなかった日がある」ときにも、遠慮なくご相談ください。正確な使用状況を共有することが、次の判断につながります。
調子がよいときにも、採血を受ける理由があります
治療中の採血では、テストステロンの値だけを見るわけではありません。補充療法によって赤血球が増えることがあるため、血液全体に占める赤血球の割合を示す「ヘマトクリット」なども確認します。体感だけでは気づきにくい変化を捉えるための検査です。
検査結果に変化があった場合には、医師が程度や背景を確認し、薬の量や方法、治療を続けるかどうかを検討します。結果の数字を見て、ご自身で薬を減らしたり、逆に増やしたりせず、まず説明をお聞きください。検査を受けることは、治療が合っていないという意味ではなく、合う状態を確かめるための一部です。
採血の日程も大切です。薬の種類や投与方法によって、ホルモン値を確認するのに適したタイミングが異なります。「最後に注射を受けたのはいつか」「塗る薬をいつ使用したか」が分かるようにし、採血前の使い方は処方元の指示に従ってください。
血圧の変化も、診察で共有してください
テストステロン製剤では、血圧が上昇する可能性にも注意が必要です。米国では血圧を継続的に測る研究の結果を踏まえ、製剤の注意事項に血圧上昇に関する情報を追加する対応が行われました。これは海外の製剤に関する情報ですが、治療中に血圧も確認する意義を示しています。
もともと高血圧がある方や、家庭で血圧を測っている方は、その記録をご持参ください。普段より高い状態が続くときには、治療との関係も含めて主治医にご相談いただきたいと思います。一回の値だけで薬の影響と決めつけたり、血圧の薬や補充療法を自己判断で変更したりしないようにしましょう。
家庭での測定を勧められた場合は、測り方と記録する期間も確認してください。すでに血圧手帳や測定器の記録がある方は、新しく書き直さず、そのまま見せていただいて構いません。別の医療機関で血圧の治療を受けている場合には、そのこともお伝えください。
排尿の変化や前立腺の検査も、一人ひとりに合わせて
「尿が出にくくなった」「夜にトイレへ起きる回数が増えた」などの変化があれば、診察でお知らせください。すべてを補充療法の影響と考えるのではなく、もともとの状態や、ほかの原因も含めて確認します。
前立腺に関係するPSAという血液検査などは、年齢、これまでの検査結果、リスクやご本人の希望も踏まえて考えます。全員に同じ検査を同じ間隔で行うというより、必要な確認を主治医と相談することが大切です。検査の意味や、次はいつ確認するのかが分からないときには、診察の際にお尋ねください。
変化を感じにくいときは、増量より先に相談を
治療による変化の現れ方や、評価に必要な期間は、症状や治療方法によって異なります。「知人はすぐに元気になった」という話と、ご自身の経過を同じように考える必要はありません。
十分な変化が得られない場合は、治療が狙っている症状、検査値、使用状況、ほかの病気や生活上の負担などをあらためて確認します。治療を続けるか、方法を見直すかも含めて相談する機会です。薬を多く使えば、よりよくなるとは限りません。
受診時には「何も変わらない」だけでなく、「一番困っているのは、今も眠れないことです」など、いま優先して解決したいことを一つ伝えてみてください。限られた診察時間でも、ご本人の希望を共有しやすくなります。説明を聞いて気になる点が残ったら、その場で確認していただいて大丈夫です。
「いつまで続けるのか」も、聞いてよい質問です
治療を始めると、「ずっと続けなければいけないのでしょうか」と気になる方もいらっしゃるでしょう。開始前には思いつかなかった疑問が、通院を重ねるうちに出てくることは自然なことです。費用や時間の負担も含め、続け方について率直にご相談ください。
診察で一度にすべて聞くのが難しければ、「今日は今後の通院の見通しを相談したい」と最初に伝える方法もあります。次の評価までに何を見ておくか、どのような場合に予定より早く連絡するかを確認しておくと、日々の迷いを整理しやすくなります。
例えば、予約を取る際に「次は診察だけか、採血もあるか」「薬を使う時刻について、前もって確認することはあるか」を尋ねておきましょう。仕事の合間に通う方は、必要な準備が分かるだけでも予定を立てやすくなります。受診を終える前に、次回の日程と持ち物をメモしておくこともおすすめします。
次の受診までに、三つだけ準備してみましょう
一つ目は、よくなったことと、まだ困っていることの短いメモです。二つ目は、お薬手帳と、他院で受けた検査結果や血圧の記録です。三つ目は、次回に聞きたい質問を一つ決めておくことです。「この治療で何を目標にしていますか」「次の採血はいつですか」といった質問でも構いません。
市販薬やサプリメントを使っている方は、商品名が分かる写真などをご用意ください。通院先が複数ある場合には、別の先生に処方された薬も共有しましょう。ご家族との予定などで通院が難しいときは、自己判断で投与間隔を変えず、早めに処方元へご連絡ください。
また、治療を始めた頃と生活の希望が変わることもあります。妊娠を希望するようになった場合などは、次回の処方前にお伝えください。新しい不調があり、早めに診てもらうべきか迷うときも、予約日まで抱え込まずご相談ください。
気になる変化を、一緒に確認していきましょう
テストステロン補充療法は、始めた後の評価と相談も大切な治療です。体調の実感と検査結果を合わせて振り返ることで、その方に合う治療を検討していきます。調子がよくても定期受診を続け、気になる変化は遠慮なくお知らせください。
みらいメディカルグループのホルモン補充療法外来へご相談ください。受診をご希望の方は、グループ公式ホームページで診療案内をご確認ください。他院で治療中の方は、これまでの経過が分かる検査結果とお薬手帳をご持参いただくと、ご相談を進めやすくなります。
