
外を歩くのが気持ちよく感じられる日には、「そろそろ運動を再開しよう」と思うことがあるでしょう。夏の間は外出を控え、気がつけば以前より歩かなくなっていた。健診で運動を勧められたものの、何から始めればよいか分からない。そんな方もいらっしゃると思います。
せっかく始めるなら、初日から長い距離を歩かなければ、と考える必要はありません。大切なのは、今の体調と暮らしに合うところから始め、続けられる方法を見つけることです。今回は、秋をきっかけに体を動かしたい方へ、再開前の準備と日常への取り入れ方をご提案します。
運動着に着替える時間だけが、体を動かす時間ではありません
健康づくりでいう「身体活動」には、スポーツや体操のほか、通勤、買い物、掃除など、生活の中で体を動かすことも含まれます。ジムに通う時間が取れなくても、日々の予定の中に動く機会を見つけることはできます。
WHOは、少しでも体を動かすことには意義があり、さまざまな身体活動を積み重ねることが大切だとしています。定期的な身体活動は、心血管疾患や糖尿病などの予防に役立ち、心の健康や睡眠にもよい影響が期待されます。ただし、一度歩けば病気を防げるという意味でも、運動だけですべての治療を代えられるという意味でもありません。
まずは一日の流れを思い浮かべてみましょう。玄関から駅までの移動、昼休み、夕食後の片づけなど、すでにある行動に小さな動きを足す方法を考えます。新しい習慣をいくつも作るより、「この場面ならできそう」と思える一つからで構いません。
目標の数字は、初日のノルマではありません
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に、歩行または同等以上の強さの身体活動を一日60分以上、歩数にすると約8,000歩以上に相当する量を推奨しています。高齢者では一日40分以上、約6,000歩以上が目安です。個人差を踏まえて調整し、可能なものから取り組むことが前提になります。
ここでいう60分は、必ず一度に60分間の散歩をしなければならない、という意味ではありません。生活の中の活動も含めて考えます。また、歩数計の数字は活動の一部を捉えるもので、自転車や筋力トレーニングなどを同じように評価できるわけではありません。
しばらく運動から離れていた方が、翌日から急にこの数字を達成しようとすると、無理につながることがあります。目標を知ることと、今日の量を決めることは分けて考えましょう。昨日までの生活に比べて、無理なくできることを少し増やす。その積み重ねを出発点にしていただくことをご提案します。
座りっぱなしの時間にも、区切りを作りましょう
散歩を始めても、そのほかの時間をずっと座って過ごしていることがあります。デスクワーク、テレビ、スマートフォンなど、長く座り続ける場面は身近です。身体活動の量を増やすことに加えて、座ったままの時間が長くなりすぎないようにすることも勧められています。
仕事の区切りに立って水を取りに行く、家事を一つ済ませる、電話の後に少し歩くなど、ご自身の生活で思い出しやすいきっかけを選んでみてください。「座ったらいけない」と身構えるより、同じ姿勢が続いていることに気づく工夫として取り入れましょう。
立ち上がるとふらつく方や、歩行に介助が必要な方は、急いで立つ必要はありません。安全な姿勢でできる動きについて相談してください。歩ける人の目標を、そのまま全員に当てはめるのではなく、体の状態に合わせることが大切です。
始める前に、室内の安全を確認しましょう
車輪のない丈夫な椅子を、滑らない床に置いてください。座ったときに足裏が床につく高さが目安です。椅子から立つ運動では椅子を壁につけ、立位の支えに使う場合も、押して動いたり倒れたりしないことを確認します。周囲のコードや敷物を片づけ、滑りやすい靴下だけでの運動は避けましょう。
以下は、公的医療機関が紹介する運動をもとにした開始例です。八つをひとまとめに行うことで特定の効果が実証されたプログラムではありません。初回はできそうな二〜三種目を選び、各一セットから。回数より、呼吸を止めず、反動をつけず、痛みのない範囲で動くことを優先してください。転倒歴や強いふらつきがある方は、立つ種目を一人で試さず、まず医療者へご相談ください。
座ってできる四つの運動

① 座って足踏み:左右五回ずつから
背すじを楽に伸ばし、椅子の座面を持ちます。片方の膝を曲げたまま少し持ち上げ、足を静かに戻して左右交互に行います。上体を後ろへ倒して脚を持ち上げないようにしましょう。股関節まわりを動かす運動です。
② 膝伸ばし:左右五回ずつから
片脚の膝をゆっくり伸ばし、可能なら約三秒保ってから戻します。反対の足は床につけたままです。太ももの前を使う動きで、膝を無理に伸ばし切る必要はありません。痛みが出る場合は中止してください。
③ 座ってかかと上げ:五回から
両足を床につけ、つま先側を床に残したまま、かかとを上げ下げします。ふくらはぎを使う運動です。大きく上げようとせず、ゆっくり戻しましょう。立って行うかかと上げとは負荷が異なります。
④ 座ってつま先上げ:左右五回ずつから
かかとを床につけたまま、片足ずつつま先を持ち上げて戻します。すねの前側を使う動きです。③とは床に残す部分が逆になります。足首が硬い場合も、動く範囲で小さく行ってください。
椅子や壁を支えにする四つの運動

⑤ 椅子から立つ・座る:五回を目安に
足を腰幅に置き、上体を少し前へ傾けて立ち、ゆっくり座ります。脚の力で行うのが基本ですが、難しい場合は無理をせず、肘掛けなどを使う方法を医療者に相談してください。座面へ勢いよく落ちないことが大切です。
⑥ 支えてかかと上げ:五回から
動かない支えを両手で持ち、つま先を床につけたまま、両かかとを上げて戻します。ふくらはぎを使います。慣れても、この開始例では支えを外す必要はありません。ふらつく方は③を選んでください。
⑦ 脚の横上げ:左右五回ずつから
両手で支えを持ち、上体をまっすぐ保って片脚を少し横へ開き、戻します。お尻の横を使う運動です。脚の高さより、体を横に傾けないことを意識してください。片脚で支えるため、不安定な方は省きましょう。
⑧ 壁腕立て:五回・一セットから
壁に向かい、胸の高さに両手をつきます。体を一直線に保ち、肘を曲げて壁へ近づき、押して戻ります。胸や腕を使います。肩・手首に痛みがある場合は行わず、負担の少ない方法をご相談ください。
増やすのは、翌日の体調も確かめてから
ここに示した回数は、久しぶりに運動する方向けの少なめの開始例です。参考資料にある二〜三セットを、初めからこなす必要はありません。途中で休み、翌日の生活に響く疲れや痛みが残る場合は、量を減らしてご相談ください。
筋力を使う運動は週二〜三日を目安に、休む日も設けて取り入れます。余裕が出たら一度に全部を増やさず、回数など一つの要素を調整しましょう。この八種目だけで、歩行などの活動量をすべて満たせるわけではありません。短い散歩や座りっぱなしの中断と合わせ、ご自身に合う組み合わせを考えてみてください。
秋の外出も、服装とコースをひと工夫
秋でも日中に暑さを感じる日があり、朝夕との気温差もあります。カレンダーだけで判断せず、その日の天候に合わせて時間帯や服装を選びましょう。脱ぎ着しやすい上着や、足に合う靴を用意しておくと、外出の準備がしやすくなります。
暗い時間帯に歩く場合は、明るい道を選び、周囲から見えやすい服装も考えてください。段差や濡れた落ち葉など、足元が気になる場所は避けて構いません。体調を整えるための散歩で、危ない道を無理に通る必要はありません。
雨の日の代わりも、先に決めておくと便利です。室内で家事をする、片づけの合間に体を動かすなど、普段の活動に置き換えてみましょう。外を歩けなかった日を失敗とせず、その日にできる方法を選ぶことが、続ける助けになります。
こんなときは、運動を増やす前にご相談ください
心臓や肺の病気で治療中の方、血圧や血糖の管理について指示を受けている方、最近体調が変わった方は、運動の強さや量を増やす前に主治医へご相談ください。持病があるから一律に動いてはいけないのではなく、今の治療と両立できる範囲を確認するための相談です。
運動中に胸の痛み、普段と違う強い息苦しさ、めまいなどが出た場合は中止してください。強い症状や、休んでも続く症状があるときは、速やかに医療機関へ連絡し、状況によっては救急要請が必要です。「運動不足だから仕方がない」と決めつけないようにしましょう。
また、糖尿病の薬を使っている方などは、食事と運動のタイミングについて個別の注意が必要な場合があります。薬を自己判断で減らしたり、運動のために食事を抜いたりせず、受診時にご確認ください。お薬手帳と、普段どのくらい動いているかが分かるメモがあると、相談に役立ちます。
「できそうな一つ」から、秋の習慣に
運動の再開に必要なのは、初日の頑張りを大きくすることより、次の日も取り入れられる工夫です。短い散歩、座りっぱなしの中断、無理のない筋力づくりから、まず一つ選んでみましょう。休む日があっても、できるところから再開していただければと思います。
みらいメディカルグループの内科では、生活習慣病や日常の体調についてご相談いただけます。「健診で運動を勧められたけれど不安がある」「動くといつもと違う症状が出る」といった場合もお聞かせください。診療を行うクリニックや受診方法は、グループのホームページをご確認ください。今の体と暮らしに合わせて、続けられる方法を一緒に考えていきましょう。
