
「最近、疲れやすい。男性ホルモンの治療を相談してみようかな」。そう考えたとき、将来のお子さんについても、診察で一緒にお話しいただきたいことがあります。今すぐ妊娠を希望していなくても、「いつかは」「まだ決めていない」という気持ちは、治療を選ぶうえで大切な情報です。
テストステロンは男性の健康や精子の産生に関わるホルモンですが、外から補充すると、かえって精子をつくる働きが抑えられる場合があります。今回は、男性更年期の症状全般ではなく、テストステロン治療と、将来子どもをもつための力である「妊孕性(にんようせい)」についてお伝えします。
「男性ホルモンを増やす」と「精子を増やす」は同じではありません
テストステロンという言葉から、「男性としての力を高めるもの」「多ければ妊娠につながりやすくなるもの」とイメージする方もいらっしゃいます。しかし、血液中のホルモン値、性欲や勃起の状態、精子をつくる働きは、それぞれ関連しながらも、同じものではありません。
例えば、性欲があることや勃起できることだけで、精子の数や動きまで分かるわけではありません。反対に、血液検査でテストステロンが低めだったからといって、その数字だけで子どもをもてないと決まるわけでもありません。気になることを一つの数値にまとめず、何に困っているのか、何を希望しているのかを分けて相談することが大切です。
「疲れを楽にしたい」と「将来の妊娠の可能性も大切にしたい」。この二つは、どちらかを言い出してはいけないものではありません。両方を最初に伝えていただくことで、検査や治療の相談を進めやすくなります。
補充によって、精子をつくる合図が弱くなることがあります
精巣の働きは、脳から送られるホルモンの合図によって調節されています。体の外からテストステロンを補うと、その合図が抑えられ、精子の産生が減ることがあります。精液中に精子が見られなくなる場合もあります。
これは「男性ホルモンが精子に必要」ということと矛盾するように感じられるかもしれません。大切なのは、体内のホルモンの調節には仕組みがあり、血液中の値を上げれば精巣内の環境も同じように整うわけではない、という点です。
そのため、現在または将来、子どもを希望する男性に、妊娠の希望を確認せずテストステロン補充療法を始めることは勧められません。海外の男性不妊診療ガイドラインでも、この点は治療選択の重要な条件とされています。治療そのものを一律に否定するのではなく、ご本人の目的に合った方法を選ぶための確認です。
注射かジェルかを選ぶ前に、伝えたい希望があります
「注射ではなく、塗るタイプなら妊娠への影響はないのでは」と考える方もいらっしゃいます。けれども、テストステロンを補う治療では、投与方法だけを理由に精子への影響がないとはいえません。使いやすさや通院回数とともに、妊孕性についての確認が必要です。
診察では、「近いうちに子どもを希望しています」「今は予定がありませんが、将来の可能性は残しておきたいです」「まだパートナーと話し合っていません」と、そのままお伝えください。結婚しているかどうかや、すでにお子さんがいるかどうかだけでは、これからの希望は分かりません。
希望がはっきり決まっていない段階でも、ご相談いただいて大丈夫です。診察までに結論を出す必要はありません。まず、治療によってどのような影響があり得るかを知り、そのうえで考える時間を持っていただきたいと思います。
受診するときは、この三つをメモしてみましょう
一つ目は、今いちばん困っていることです。疲れ、性欲の変化、気分の落ち込みなどについて、いつから続いているか、仕事や暮らしにどのような支障があるかを短く書いておきましょう。「ホルモンを上げたい」という希望の背景にあるつらさを伝えるためのメモです。
二つ目は、妊娠についての希望と時期です。「今年中に考えたい」「数年先かもしれない」など、おおまかな見通しでも構いません。すでに不妊の検査や治療を受けている場合は、その経過や結果もお持ちください。ご自身だけで説明しづらい場合は、まず相談したい内容を書いて渡す方法もあります。
三つ目は、現在使っているお薬やサプリメントです。他院の注射、ジェル、個人輸入した製品なども含め、名前・使用量・開始時期が分かるものをご持参ください。商品名を覚えていなければ、容器やラベルの写真でも役立ちます。処方薬はお薬手帳で確認できますが、そこに載っていない製品も忘れずにお知らせください。
血液検査と精液検査では、見ていることが異なります
ホルモンの状態を調べる血液検査と、精子の数や動きなどを調べる精液検査は、目的が異なります。「ホルモンの検査をしたから、妊娠に関係する検査もすべて済んだ」とは限りません。必要な検査は、症状、診察の所見、妊娠の希望などを踏まえて相談します。
テストステロンは採血の時間帯や体調などによって変動します。検査結果を持参するときは、数値だけでなく、採血した日時や、そのとき使っていたお薬も分かると参考になります。再検査を提案された場合には、どのような条件で受けるかをご確認ください。
精液検査にも変動があり、結果によっては複数回の確認が必要です。一度の結果を見て、ご自身だけで将来の可能性を決めつける必要はありません。検査を受ける施設から、採取方法などの説明を受けて進めましょう。必要に応じて、男性不妊を専門とする医療機関での評価につなげることも大切です。
診察の終わりには、「今回の検査で分かることは何ですか」「妊娠の希望を踏まえると、どのような選択肢がありますか」「次はいつ相談すればよいですか」と確認してみましょう。説明を一度で覚えきれないときは、メモを取っていただいて構いません。検査の目的と次の予定が分かると、帰宅後にパートナーと話し合う際にも役立ちます。気になることが残ったら、次回の診察で改めてお尋ねください。
すでに治療中でも、今から相談できます
「治療を始めた後に知った」「これから子どもを考えるようになった」という方も、まず処方した医師にご相談ください。ご自身を責めたり、相談しにくいと感じたりする必要はありません。生活や家族についての希望は、時間とともに変わることがあります。
精子をつくる働きが回復するまでの経過には個人差があり、薬をやめればすぐ元に戻る、必ず妊娠できる、と約束できるものではありません。だからこそ、自己判断で中止・再開を繰り返さず、使用してきた製剤と期間を伝え、今後の方針を決めましょう。
原因によっては、テストステロンを直接補う方法とは異なる治療が検討されます。ただし、特定のお薬を追加すれば誰でも精子を保てる、ということではありません。専門的な検査と経過観察が必要で、薬の名前を調べて自分で組み合わせることは避けてください。
二人の希望を、治療の相談にも持ち込みましょう
妊娠について考えるとき、男性側の体調の相談と、パートナー側の受診が別々に進むことがあります。可能であれば、今受けている治療や、これから相談したいことをお互いに共有しておくと、診察でも希望を伝えやすくなります。どちらか一方に原因や責任を求めるためではありません。
例えば、「体調の治療を考えているけれど、将来の子どもへの影響も確認したい」と切り出してみてください。まだ話せていないことや、一人で相談したいことがある場合は、それも診察時にお伝えいただいて構いません。話す順番や範囲は、ご本人の気持ちを大切にして進めましょう。
受診の準備として今日できることは、薬の写真を一枚保存する、検査結果を一か所にまとめる、診察で聞きたいことを一行書く、といった小さなことで十分です。詳しい知識を身につけてからでなければ相談できない、ということはありません。
今の体調と、これからの希望を一緒に考えるために
みらいメディカルグループでは、テストステロンに関する専門外来をご案内しています。ホルモン補充療法外来へのご相談を希望される方は、公式ホームページから対応するクリニックと受診方法をご確認ください。診察では、お薬手帳と、これまでの検査結果をご持参いただくと相談を進めやすくなります。
妊娠を希望される場合には、予約時または診察のはじめに、その旨をお知らせください。男性不妊に関する検査や治療の対応範囲は、受診先にご確認ください。症状を和らげることと、将来の希望を大切にすることの両方を、治療の相談に含めていきましょう。
テストステロンの治療は、「数値を上げる」という一つの目標だけで選ぶものではありません。「いつか子どもを」と思っていることも、大切な診療情報です。治療を始める前も、始めた後も、どうぞ遠慮なくお話しください。
